吉田直人

生粋の辛党で日本酒は常温で呑む。金欠でつまみを買えない時にでも塩を舐めながらチビチビ呑むのが本物の無頼派だ。そんな彼だが実は医療系ソフト販売会社に勤める歴とした社会人。ショートムービーや演劇の台本を手がける表現者でもあり、二束のわらじを穿きながら活動している。そこまでして彼を突き動かす「初期衝動」とは何なのか。60分飲み放題(980円)+αの時間が許す限り、彼の深層に迫ってみる。(文責:宮崎智之)

「完璧な人間なんていない」。そう気づいた時から全てが始まった

一般的に表現者にとっての「初期衝動」とは、感じた時期が早ければ早いほど価値が上がるものだと考えられている。しかし、そういった風潮は、生まれながらの天才で有り得たいと欲する凡人か、成功者のルーツを幼少時代の体験に求めたがる懐古主義的なマスコミかによって作られたものにすぎない。

彼の場合、「初期衝動」が走ったのは高校生のとき。この場合、早いか遅いかは重要な問題ではない。

中学校ではバスケットボール部に所属し、明るく活発だった吉田少年。しかし、高校に入学するとノイローゼのような症状に陥り、「青春の一番大切な時期」を楽しむことができなかった。「環境が合わず、部活も辞めてしまったので、打ち込むことが無かったことが要因の一つだったかもしれない」。当時は気が置けない友人も少なかった。

「自分は特別に変で、人とは違うのではないか」。そう思いつめていた時に出会ったのが、小説や映画だった。彼が読む小説には、どこか不完全で欠陥がある人物が多く登場した。例えば村上春樹の初期3部作に出てくる鼠は「存在そのものの弱さ」を抱えていたし、チャーミングな映画スター・五反田君はマセラティに乗ったまま芝浦の海に突っ込んだ。

「完璧な人間なんていない」。そんな当たり前のことに気が付いた時、世界が広がったような気がした。そして、「同じように悩んでいる人を、いつか自分の書く文章で救いたい」と思うようになった。

「酒が無ければ今の自分はいなかった」

話は変わるが、そんな彼は呑めば呑むほど純粋になれる「吉田流酔拳」の師範代でもある。先日も早朝の西荻窪駅で無我の境地を切り開いたばかりだ。始発から忙(せわ)しなく電車に乗り込む人々を路上から見送る彼の無欲な姿は、人々に「こうはなるまい」という教訓と明日への希望を与えたに違いない。「釈迦入滅から56億7000万年後に衆生を救済するといわれている弥勒菩薩が、西荻の赤提灯街に降臨したのか」と早合点した人も少なくないだろう。

「酒が無ければ今の自分はいなかった」「酒が無い人生なんて考えられない」「酒に救われたようなもの」。いい歳をした大人が、そこまで酒に感謝の意を表するのもどうかと思うが、実は人見知りする彼にとって酒は重要なコミュニケーションツールの一つ。「飲みニケーション」と言ってしまえば俗っぽいが、「無頼派」と言えばどこか高踏的な雰囲気さえ漂うのだから不思議なものだ。

冗談はさておき、いつかは表現すること自体を仕事にしたいという思いもある。しかし、今勤めている会社で学ぶことも多く、薬剤師など普段触れ合う機会が少ない人たちとの出会いは良い刺激にもなる。恐れているのは日々に埋没して「初期衝動」を忘れてしまいそうになること。だからこそ、「喜びとか、悲しみとか、享受するだけではなく発信しなければ」と自分に強く言い聞かせながらペンを握り、純粋になるために酒を呑む。

飲み放題の時間が終わり、今宵、大人しく家路についたのは、僕らが成長したからでも、心のブレーキの外し方が分からないからでもなく、今の想いを早く文章にして書き留めたいという衝動に駆られたからだ。

座右の品
晩年

「葉」という短編に『死のうと思っていた年の正月にもらった着物が「麻」でできていたので、夏まで生きようと思った』という一節があるが、人生ってきっとこういうものじゃないだろうか。そんなふうに考えると力強く生きていける気がする。

【略歴】

1981年 6月25日生まれ 26歳 東京都福生市生まれ 同市在住 福生市立福生第七小学校→同第三中学校→都立昭和高校→桜美林大学経済学部→雑誌編集部アルバイト→医療系ソフト販売会社【星座】かに座【血液型】O型【家族構成】父母弟【趣味】散歩【好きな食べ物】カニみそ【嫌いな食べ物】ネギ【お気に入りスポット】ツタヤ福生店【尊敬する人】岩井俊二【座右の銘】愛だろ、愛【好きなタイプ】カッコいい異性【嫌いなタイプ】距離感がつかめない人【子どもの頃の夢】警察官、漫画家

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2007-011-12-MON






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