「人は共通の体験を持つ人に親近感を抱く」。例えば同じ出身地の人、同じ学校の卒業生、同じ趣味を持つ友人。もちろん、それが原体験に近ければ近いほど親近感は深まるが、多数の人とそれらを共有することは難しい。 ここに、ある世代が共通して通過した原体験の中に生きる男がいる。「ファミコンの中の人」、またの名をサカモト教授(29)。頭の上のファミコンにカセットを挿し込むと、涙が出るほど懐かしいゲーム音楽を弾いてくれるという、21世紀に突如として現れた人間・家庭用ゲーム機だ。彼の動画は、YouTubやニコニコ動画で200万回以上の再生回数を誇る。「ファミコン世代」の心を魅了してやまない彼の人気の秘密に迫ってみた。(文責:宮崎智之)
「ピアノが弾ける奴」という地位
幼い頃から人を喜ばすことが好きだった。4歳から歳の離れた二人の姉の影響でクラシックピアノを始め、メキメキ上達。しかし、それだけでは飽き足らず、小学校ではピアノのレッスンで鍛えた絶対音感をもとに、あるパフォーマンスを披露する。それがゲーム音楽を皆の前で弾いた最初だった。ピアノが弾ける男子と言えば繊細で引っ込み思案だというイメージもあるが、サカモト教授の幼少時代はそんな先入観とはほど遠い。「勝手にクラスのお笑い四天王をつくって、自分もその一人になっていました」。何気なく皆の前でゲーム音楽を演奏したことで、「クラスのムードメーカー」としての色合いをさらに強めていった。
その時、味わった「ゲームの音楽を弾くと皆が喜んでくれる」という体験が後の人生を変えていくことになるのだが、それはもう少し後のこと。ここでは先を急がずに、もう少し教授が歩んできた人生を辿ってみたい。
サカモト教授が育った大阪の南部地域は、いわゆる不良が多い土地柄だった。しかし、教授は「ピアノが弾ける奴」という地位を早々に確立し、不良からも先生からも一目置かれる存在になっていたという。「ゲーム音楽を弾くことで不良も尊敬の眼差しでみてくれるんです」。ゲーム音楽は教授にとって「世渡りの道具」でもあったが、それにも増して音楽を弾くことで誰かが喜んでくれることが純粋に嬉しかった。
そんなこともあり、思春期に近づくにつれてクラシック音楽の形式ばった世界観に嫌気が差すようになっていく。そしてついに中学2年生で初めて親に反抗し、ピアノのレッスンをやめることに。以降、ジャズなど「自由に表現できる」音楽を独学で学んでいった。高校に入ってからはLUNA SEAやX JAPANなどのコピーバンドを組み、9歳から習っていたドラムを演奏した。大学時代は京都で過ごし、軽音サークルに所属。本格的に音楽活動をスタートさせ、4年間に組んだバンドは100以上にも及んだ。
もともとは、ファミコン係長だった
一方で、かねてよりアニメソングからも大きな影響を受けていた。特に聞いていたのは「天空のエスカフローネ」や「地球少女アルジュナ」などの音楽も手掛ける菅野よう子さんの作品。しかし、音楽でだけではなく、「音映像と合わさって単体ではなしえない相互作用を発揮する作品が好き。二つがシンクロすることで感動も増幅するような瞬間に心を奪われる」のだとか。もちろんこれは、ゲーム音楽やニコニコ動画などに言えることでもある。
そんなサカモト教授が、かつてクラスの男子たちを狂喜させたゲーム音楽を思い出したのは、大学を出た後に京都でフリーターをしていたときのことだ。
「京大の西部講堂で行われていたボロフェスタのサードステージで、時間が余ったからセッションしようということになったんですが、それでも時間が余ってしまって」。そこで、すっかりお酒が入っていたサカモト教授がゲーム音楽を即興で披露したところ、瞬く間に人だかりができた。「昔やっていたことが今でもうけることに驚いた。これはいけると思いました」。音楽の原体験、ゲーム音楽を弾いて喜ばれたあの快感を思い出した瞬間だった。
その時に偶然、パフォーマンスを見ていた人のワンマンライブに前座として誘われ、「ちゃんとしたライブハウスでやるなら衣装を考えなければ」と、現在の頭にファミコンを乗せる今のスタイルを確立させた。その後、大学の先輩の紹介でオンラインゲーム関連の会社に就職し、上京。07年に行ったライブ映像を誰かがニコニコ動画にアップし、ランクインしたことがきっかけで知名度も上がっていった。
余談だが京都時代の芸名は「ファミコン係長」だった。しかし、「坂本という苗字でピアノを弾けると、どうしても教授と呼ばれてしまうんです」。それからは「坂本教授」と漢字表記で活動していたが、「ネットで 検索しやすいように」と、カタカナに改めた。高校時代に坂本龍一の音楽にはまっていたこともある彼だけに、何とも不思議な縁を感じるエピソードだ。
僕らの世代に共通してあるもの
それにしても、小・中学校時代や京都のボロフェスタ、そして現在と、彼が奏でるゲーム音楽は、なぜこうも多くの人の心をとらえるのだろうか。
「人は共通の体験を持つ人に親近感を抱く。同じ失敗した体験を持つ人ならなおさらです」。確かに、人はゲームを通してさまざまなことを学ぶ。「ドラクエでセーブデーターが全部消えたことで世の中があまくないことに気付いたり、友だちに貸したカセットが帰ってこなかったり。僕らの世代は共通してそういうことから教訓を学んでいるんです」。その他にも、家庭の方針や経済状況などでファミコンを買ってもらえなかったり、家庭によってファミコンをしていい時間がまちまちだったりと、思いつくことを挙げるだけでもときりがない。
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そんな膨大な時間を有する共通体験がファミコン世代の根底にあるからこそ、その世代の人々がサカモト教授のゲーム音楽に触れた時、親近感や懐かしさを共有できるのかもしれない。仮に「ふつう」という言葉を「同世代性」ととらえるならば、ファミコンこそが1980〜90年代前半に幼年期を過ごした世代の「ふつう」だと言うこともできるのではないか。 |
【略歴】
1980年2月11日生まれ 大阪生まれ、東京在住【星座】みずがめ座【血液型】A型【趣味】ゲーム、漫画、アニメ【好きな食べ物】ロールキャベツ【嫌いな食べ物】虫は食えない【お気に入りスポット】中野ブロードウェイ【尊敬する人】高橋留美子(漫画家) 【好きな女性のタイプ】明るい人【嫌いなタイプ】ジメジメしている人【座右の銘】脳ある鷹は頭隠して尻隠さず【子どもの頃の夢】吉本新喜劇の芸人
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